震災から10年を迎えた東北。
国が推し進める復興事業や外部からの大きな支援の流れは一段落していく一方で、東北の中からは小さくとも自立的な新しい事業の流れが生まれつつあります。

震災後の東北において「課題先進地」と言われる環境だからこそ生まれてきた新しい事業のあり方とその担い手の出現に注目し、10年間の推移を振り返ると共に、その生まれ方や育ち方を研究することで、これからの社会変革に活かすことのできるポイントを発信していきます。

調査概要

対象地域:
釜石(岩手)、気仙沼(宮城)、石巻(宮城)、南相馬(福島)の東北4地域。
調査手法:
リーダー数珠繋ぎ調査
調査期間:
2020年6月24日から2021年1月31日
調査人数:
4地域合わせて99名のインタビューを実施。 (釜石市18人、気仙沼市27人、石巻市33人、南相馬市21人)
調査主体:
京都経済短期大学 菅野拓(2021年4月から大阪市立大学に所属)、みちのく復興事業パートナーズ(事務局:NPO法人ETIC.)、一般社団法人みちのく復興・地域デザインセンター

地域の選定の基準は?

人のつながりを扱う調査であるため、一定の人口規模があり、また、大きな被害を受けた地域を被災3県の沿岸市町村の中から選定しました。

リーダー数珠繋ぎ調査とは?

「東北リーダー社会ネットワーク調査」では、人のつながりを可視化するために、社会ネットワーク調査を実施。この調査では、ある地域のリーダーにインタビューして、その社会ネットワークを把握したうえで、把握できた別のリーダーのうち同じ地域に住む人に対して、まるで数珠繋ぎのように、インタビューを行っていきました。そのため、この方法について「リーダー数珠繋ぎ調査」と呼んでいます。

リーダー数珠繋ぎ調査のイメージ

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具体的な調査方法

釜石、気仙沼、石巻、南相馬の東北の4地域でインタビュー調査を実施しました。

  • インタビューで把握した社会ネットワークのうち、同一地域に居住する人物をランダムにインタビュー対象者とする、スノーボールサンプリングで調査実施しました。
  • インタビューの内容は下記の通りです。
  • 主な調査項目は属性、人的資本の状況(学歴、仕事歴など)、社会ネットワーク(例えば最大10人など)とその形成時期・形成機会、居住地履歴など。
  • 社会ネットワークは「 東日本大震災以降の活動のなかで信頼し、お世話になっている・いたと感じている人物や活動の立ち上げや変化に大きく関与したと感じている人物を最大10人教えてください」として把握。
  • 次のインタビュー対象者は、インタビューで把握できた社会ネットワークより、地域内や近郊に居住している人物を選定。

調査を実施する段階で
持っていた仮説

調査をする上で検証したかった仮説は、「持続可能性にかかわる課題への対応や、新たな事業の創造に地域のハブ機能の在り方が関係しているのではないか?」でした。

湧いてきた具体的な「問い」は下記のようなものです。

  • 地域でハブ機能を発揮している人たちがいると、地域が良い方向に育つのではないか?
  • 社会的課題への対応能力があがるのではないか?
  • 新しい事業が創造されているのではないか?
  • セクター間の関係性も関与しているのではないか?
  • CSV経営などもかかわりがあるのではないか?

今回調査をした人数

4地域で99人にインタビュー調査を実施し、652人のキーパーソンを把握しました。(うち複数地域から指名8人)

  • 岩手県釜石市:
    インタビュー18人、把握115人
  • 宮城県気仙沼市:
    インタビュー22人、把握153人
  • 宮城県石巻市:
    インタビュー33人、把握235人
  • 福島県南相馬市:
    インタビュー21人、把握157人

調査結果

具体的な調査結果は下記からダウンロードしてください。

研究でわかったことのサマリ

今回の調査では、7つの特徴が見えてきました。

特徴1

Feature1

地域ごとのつながりの保持能力は
様々だがハブが存在

graph

被指名数ごとにキーパーソンの人数の構成比を示した図です。この社会ネットワークは、ごく一握りのキーパーソンが多数のつながりを保有するハブが存在するスケールフリー・ネットワーク*1であり、インターネットとよく似ているということがわかります。スケールフリー・ネットワークは情報伝播性が高く、ランダムにつながりを削除しても、全体構造は変化しません。この社会ネットワークの中でハブが生み出され続ける限り、つながりを通じて効率的に情報をシェアすることが可能になります。

*1 スケールフリー・ネットワークとは:一部のノードが多数のつながりを持つ一方で、ほとんどのノードは少数のノードとしかつながっていないような構造のネットワーク。

特徴2

Feature2

所属セクターの構成比は
釜石・気仙沼はよく似ているが、
石巻は政治・行政セクター、
南相馬はサードセクターが少ない

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キーパーソンの所属セクターを、上述した主たる3つのセクターと、地縁組織や医療・福祉関係機関、大学などに所属している場合(地縁・福祉・学術等・不明)、複数セクターを兼務している場合の5区分によって地域ごとに比較しました。
釜石市と気仙沼市は政治・行政セクター1割、市場セクター3割、サードセクター2割5分程度とよく似た構成比となっています。石巻市は政治・行政セクターが、南相馬市はサードセクターが、釜石市・気仙沼市に比較して社会ネットワークにあまり参与していません。南相馬市については、原発事故によって震災当初のサードセクターによる支援がためらわれたことが影響している可能性があることがわかりました。

特徴3

Feature3

2020年4月の居住状況の構成比は
南相馬市のみ地元比率6割、
残りは5割程度。
釜石のみ被災3県の比率が高い

graph

キーパーソンの2020年4月時点の居住状況を地域ごとに比較しました。当該市に居住しているキーパーソンが全体に5割以上を占め、全体によく似た構成比でした。釜石市は被災3県に住むキーパーソンの割合が大きく、南相馬市は地元に住むキーパーソンの割合が大きいことが特徴です。

特徴4

Feature4

居住状況ごとにみた所属セクターの
構成比は比較的よく似ているものの、
地元では政治・行政と市場の
割合が大きい

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キーパーソンの居住状況ごとに所属セクターの構成比を比較しました。被災3県と被災3県外はよく似た構成比でした。それと比較し、当該市では政治・行政セクターや市場セクターに所属するキーパーソンの割合が大きく、サードセクターに所属するキーパーソンの割合が小さいことが特徴です。

特徴5

Feature5

震災・原発事故がつながり形成に
大きく影響している

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震災前から調査開始までを全体として、各地域のつながりの形成時期の構成比を比較しました。気仙沼市と石巻市は比較的よく似ており、1~2割の震災前のつながりをベースに、震災直後に急激につながりが形成されています。それに比較し、釜石市はピークがずれていました。地方創生にかかわる取り組みなどがさかんになって以降に形成されたつながりだと推察できます。最も特徴的なのは南相馬市で、つながりの形成は2013年度で底をうち、そこから徐々に増えていきました。原発事故によって様々な活動が躊躇され、つながりがうまく形成されなかったと考えられます。

特徴6

Feature6

地域を越えた社会ネットワークを
形成するのはサードセクター

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4地域を統合した652名のキーパーソンの社会ネットワークを表現したものです。釜石市・気仙沼市・石巻市の津波被害が大きかった地域はサードセクターや複数セクター兼務が中心的に各地域をつなげていることがわかります。南相馬市は他地域とわずか1人のサードセクターの媒介者を通じてつながっていました。地域をつなぐ媒介者のほとんどはサードセクター専業者か兼務者であり、サードセクターの特徴として地域を越えた社会ネットワークを形成していることがわかりました。

特徴7

Feature7

複数セクター兼務者や
サードセクターが
ハブである割合が大きい

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どのセクターのキーパーソンがハブとなっているのかを割合でみたところ、サードセクターや複数セクター兼務がよりハブとなりやすいことがわかりました。一方で、政治・行政セクター、市場セクター、サードセクターのうちで最もハブとなりにくいセクターは政治・行政セクターでした。ただし、市場セクターや政治・行政セクターにも、ハブの役割を担うキーパーソンも存在するため、必ずしもセクターのみでハブの存在が規定されるわけではありません。

各地域の調査結果

各地域ごとに、社会ネットワークやキーパーソンへのインタビューから見えてきた特長や結果をまとめました。詳しくは各ページをご覧ください。

  
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本調査の一部はJSPS科研費 19K13452の助成を受け実施しています。