TPIS(学生援護会)4月号
「ソーシャル・アントレプレナーという生き方」
〜ビジネスを通じて社会的な問題の解決を図りたい
社会的意義のある仕事を模索する若者
会社員に魅力を感じない若者が増えている。「大企業に入っても、いつリストラや倒産が待っているかわからない。お金は、アルバイトでも稼げるし、何より企業の中では、自分のやりたいことはできそうもない……」。こう考える若者たちが1つの選択肢として模索し始めたのが起業という方法。しかも社会的に意義のある仕事を目指す若者が増えている。
2003年5月31日、東京・渋谷のマークシティで開催された「STYLE2003」の会場は、熱気に包まれていた。このイベントは、社会貢献を目的としたビジネスを立ち上げようとする若者を支援するためのコンテストで、NPO法人ETIC.が主催。壇上では、92件の応募の中から選ばれたファイナリスト7人が、自分たちのビジネスプランを熱く語っていた。 |
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その中の1人、フェリス女学院大の村田早耶香さん(21)は、児童買春やエイズに苦しむカンボジアの子どもたちへの支援事業計画を発表。2年前に児童買春問題に取り組むNGOのツアーに参加し、実際にエイズの子どもたちと触れ合った経験などを熱っぽく語り、会場を湧かせた。事業はカンボジアでの職業訓練センターの設立、子どもたちの保護、IT教育などを目指し、費用は日本でIT関連の仕事を受注し、現地のプログラマーに委託して生み出す予定という。
この日の入賞者は4人。優秀賞は村田さんと、「ペンキ塗りによる中古の自転車・家電再生」に取り組む佐藤大典さん(29)。特別賞は「森林の再生事業」を展開している牧大介さん(29)と、「世界の歴史教科書を収集し、博覧会を開いている」下田亜友美さん(21)。受賞者には支援金が贈られるが、参加することにより事業プランを具体化するための支援を受けられたり、援助者など人脈を広げられるメリットもある。
「ファイナリストのビジネスプランはそのままその人といえるほど、内容は個性的。若者がリスクをおって社会をよくしようとしているんだから、大人たちは協力してくださいというのがこのイベントのコンセプトなんです。
受賞者だけではなく、応募してきたプランのほとんどがおもしろかった。企画書の文字からオーラが出ているようで、選考は1つたりとも気が抜けなかった。『社会をよくしようと考えている若者がこんなに多いのか。日本はよくなるぞ!』という感動の連続でしたね」
こう語るのは、STYLEの主催者であるETIC.ソーシャルベンチャーセンタープロデューサーの井上英之氏だ。氏自身も、大手企業を辞めてNPOに参入した1人。留学先のアメリカで、企業の社会活動への支援を知り、帰国後に震災にあった奥尻島でのボランティアやルワンダ難民救済に参加。その時に、NPO活動も情熱だけではダメで、技術やマネジメントの力をつけなくてはならないと痛感したという。そして、アメリカ政府やコンサルティング会社に勤務した後、ETIC.の活動に参加した。
「自分はこのことのために働いている…という手応えがほしいと、多くの若者が思っています。僕もそうですが、働くのはお金のためだけではない、生き方そのものなんです。僕たちはこういう若者を第3世代と呼んでいる。第1世代が定年退職後に社会貢献する人、第2世代が早めにリタイアして参加する人なのに対し、第3世代は最初から仕事と自分のやりたいことを一致させようとしています」
生きる価値観と働く価値観を一致させたいと考える若者に向けて、さまざまな働き方があることを提示するのも、STYLEの目的の1つなのだと言う。
「未熟なビジネスプランも多いですが、『あれダメ、これダメ』と言っていると起業家は育たない。心から何かをしたい人を応援する文化を作ることが大事だと思っています。ただ、ボランティアとは考えていません。事業としてきちんと成り立っていくように、周りが支援をするコミュニティを作りたい」
STYLEの第1回開催は’02年で、この時はエクアドルから無農薬栽培のコーヒーを輸入して販売し、村の森を守るというプランを発表した藤岡亜美さんと、地域をつなぐ震災共済を提案した木下斉さんが優秀賞をとり、話題をまいた。受賞の後も彼らには、さまざまな支援をしているという。
このほかにも、社会起業家を育てようという動きは、全国に見られる。大阪府は、’03年「社会起業家育成支援プロジェクト」を発足。府内で地域福祉課題解決型コミュニティ・ビジネスを行う人に対して、支援を行っている。日本青年会議所も地域主導型社会を目指し、「社会起業家開発委員会」を設けた。大阪産業大学は今年4月、大学院工学研究科にアントレプレナー(社会起業家)専攻を開設。また、シンクタンクが中心となり、全国の社会起業家をネットワークする「社会起業家フォーラム」も生まれている。
効率や利益だけを主眼においた経済が行き詰まりを見せる中、ソーシャル・アントレプレナーは、1つの流れとなって来ているといえそうだ。
専門書のリサイクル書店をネット上で展開
ソーシャル・アントレプレナーを目標に掲げながら模索中の若者も多い中、実際に事業を立ち上げ、軌道にのせている若者もいる。尾野寛明さん(21)は、一橋大学の大学生。STYLEのファイナリスト、の1人、開始した事業は、確実に収益を上げており、会社としての形を成しつつある。
尾野さんが代表取締役を務めるのは、有限会社エコカレッジ。大学の中古教科書の売買が業務で、1日20冊の専門書をネットで販売し、現在の月商は100万円を超える。
「大学に入ったら、周囲は優秀な人間ばかり。学問の中に自分の道はないと感じ、学外に飛び出しました。アルバイトをしたり、インドでNGO活動をしたり、好奇心のおもむくままいろんなことをしました。STYLEにも参加したのも、自分の居場所を見つけたいと思ったから。 中古の教科書を扱おうと考えたきっかけは、大学に入り教科書を買おうとしたら、すべて専門書で値段が非常に高かったこと。先輩が使い終わったものを安く分けてもらえばいいと考えたわけです」
中古書店のブックオフでインターンシップを経験し、ノウハウを勉強した後、いよいよ店を開く。最初は学習院大学でビラを配ったが、反応はゼロ。ETIC.でビラの書き方などのアドバイスを受け、早稲田大学で再度挑戦したところ、これが当たった。
「大隈講堂の前にワゴン車を止め、古い教科書を定価の1~2割で買い、半額で売ったんですが、次々に客が来て、1日で12万円売り上げたんです。『これはいける!』という手応えを感じました」
その勢いで、「ネットで売買してみよう」という提案が出され、楽天に出店したところ、月5~10万円の売り上げに。その後、アマゾンドッドコムにも出店し、両方の売り上げが順調に伸びるようになったのを見て、’03年5月に有限会社として登記した。現在は文京区にオフィス兼倉庫を構え、仲間と経営している。
「中古の法律・経済専門書の売り上げでは、今やナンバーワンですよ。将来は自社のサイトを立ち上げて、販売したい。神保町の古書店の文化をネット上に作り上げられたらと思っているんです。
仲間には、時給で給料を払っていますが、十分な額とはいえない。でも、みんな起業を考えているので、勉強を兼ねて手伝ってもらっています。今年は仲間の2人が起業するので出資する予定。また、3月には起業したい学生を集めて、セミナーも開催します」
エコカレッジは、起業する仲間を広げる役目も果しているのだ。
「大学卒業はできるだけ延ばすつもり。最近やっと勉強したいことがみつかったし、まだ身分を定めたくないという気持ちがあるんです。学生の間に、周りに起業家をできるだけ増やして、いろんな可能性を育てていきたい。起業家が100人くらい集まればすごいパワーになると思うんですよ」
母親は一度でも就職しろというが、就職したいという気持ちはまったくない。「父親は大手企業で働いていましたが、これからという時に亡くなってしまった。そんな人生は歩みたくないという気持ちがある。高校まで勉強にしばられていたのに、また会社にしばられるのはイヤ。今、好きなことをやりたいんです」
エコカレッジの仕事は力仕事も多く、けっしてラクとはいえない。でも、自分の意志で仕事をし、自分のアイデアを実現しているので、つらさはないという。「起業家としての資質とは何?」という質問に彼はこう答えてくれた。
「失敗があっても気にしない、人に冷やかされても気にしないということかな。プッシュ、プッシュでころがっていると何かがつかめるんです」 森林保護の活動を企業の中で発展させる
ソーシャル・アントレプレナーは、企業に属したくないという人ばかりではない。企業に勤めながらも活動を広げ、本業にまで発展させてしまった人もいる。UFJ総合研究所大阪本社に勤める牧大介さんだ。彼は「STYLE2003」の特別賞受賞者だが、賞の対象になった活動は、森林保全。一見、銀行系のシンクタンクとは関係なさそうなテーマだが、牧さんはこれを社内で事業化してしまった。現在は、研究開発本部 地域・環境室 森林・林業グループに所属する。
子どもの頃から自然が大好きな昆虫少年だった。京都大学では農学部林学科で学び、トビムシを研究していた。
「大学の4回生から大学院にかけては、研究で森林を歩くほか、京都の美山町の地域おこしに関わっていて、自然観察ツアーなどを行っていました。その中で豊かな森林がほったらかしになり、同時に地域がさびれていくのを目の当たりにしたんです。林業は高齢化・過疎化で衰退してしまっていたんですね。『地域に住む人の暮らしと良好な自然の両方を残したい』という問題意識が生まれていきました」
研究は、昆虫から民俗学に方向転換。しかし、研究が現場を助ける学問になっていないことにジレンマを感じていた。「大学は居心地がよかったんですが、一度社会に出たほうがよいと考え、就職活動を開始。シンクタンクを選んだのは、学問と現場を繋げるところではと考えたからです。しかし、ビジネスを知らない世間知らずだったんですね。会社では、やりたいことができるわけではないということを1年目で悟りました」
そこで、2年目には会社の外で独自に森林関係の研究会を立ち上げるなど、いくつかの活動をスタート。このネットワークの中から、共感してお金を出してくれる人が現れ始めたという。
「主に行政の人たちですね。森林を保全していくために、いろんな補助金や制度がありますが、地域の声が反映されていなくて、あまり有効には使われていない現状があります。そういう問題をなんとか解決したいという想いをもっている行政職員がクライアントになってくれました。制度の運用改善や新制度の設計などが、入社2年目には仕事になっていき、4年目には森林関係の仕事だけで、ノルマを達成できるようになったんです」
UFJ総研は、入社2年目から年収を自分で選択する制度を実施している。翌年の仕事量を自己申告し、年俸を決めるので仕事量を自分で調整することも可能だ。牧さんは、この制度を利用して3年目は本業を減らし、外部の活動に重点を置いた。このことでさらにネットワークが広がり、その後の仕事に繋がったという。
「現在は、森林に関するコンサルティングを政策と経営の両面から実施しています。林業経営についてのコンサルティングでは、環境に配慮した森林経営に与えられるFSCという森林認証の取得支援などを行っています。僕のように森林についての専門知識をある程度持ちながら、政策や経営の現場も知っていてコンサルティングできる人間は少ないので、重宝に思っていただいているようです」
順調に仕事を発展させた牧さんだが、5~6年目の時には、この先どうしていったらいいか迷い、会社を辞めることを考えたという。
「個別の企業の改善だけでなく、林業経営自体の新しい形態にしていかなければ森林は守れない。林業関係の人とそういう会社を作ろうかという話が出ていたんです。STYLEへの応募を勧められたのは、そんな時でした」
しかし、STYLEに参加するうち、自分の置かれている立場が、思いがけない評価をされていることを知る。
「会社でも目的をはっきり持っていれば、やりたいことができる。それを世間にアピールするには、僕のような存在にも意味があるとわかった。UFJ総研という場でやっていきたいこともあるので、今の立場でしっかりやっていくつもりです」
今後は、勤めを続けながら、森林を預かって管理する新しい林業経営の会社にも関わっていく予定という。UFJ総研の中でも、新しい分野の仕事を形づくったと評価されている。
「会社の中に、ある程度自由にやらせてくれるしくみがあったから、できたんだと思います。やりたいと思うことをやるということと、食べていくことを両立できるのは恵まれていると思います。また、森林保全の活動を通じ、同じ目的を持って共感できる仲間と、いい成果を出し、喜びあえるというのも、僕にとっては得難い楽しみなんです」
社会的課題の発見には個人としての視点が必要
何人ものソーシャル・アントレプレナーを育てつつあるSTYLEの運営には、いくつかの特徴がある。1つは、審査の間にブラッシュアップの機会を設けていること。1次審査で選ばれた人には、2次審査までの間に実現可能なビジネスプランに練り上げるまでアドバイス。さらに2次審査から最終選考の間には、実際に顧客にアプローチするテストマーケティングを行ってもらうという。
「社会起業家になろうという人は、問題意識を持つに至った原体験を持っている。それは非常におもしろいんですが、ビジネスまでに発展させるには、足りないことがいくつもある。ブラッシュアップは、それを知ってもらうのが目的です。しかし、機会は提供しますが、本人が自律的に考えるようにと、サポートのしすぎはしないようにしています」(前出・ETIC.井上氏)
また、起業家教育は起業家にしかできないという考えのもと、ジャッジ&メンター(審査員&援護者)には、ソフィアバンク、デジタルハリウッド、マネックス証券の代表など、実際にビジネスの最前線で活躍している人を選んでいる。
「ジャッジ&メンターを“励ましキャピタリスト”と呼んでいるんですが、彼らは、『挑戦することはいいことだ』という擦り込みをしてくれる。挑戦者に必要なのは、具体的なアドバイスをしながら、『きみ、いいね』と言ってくれる人です」
井上氏は、社会起業の事業プランが成功するには、4つの基準がるという。1つ目は個人としての思い入れ・問題発見、2つ目は周りの人や顧客を巻き込む共感性、3つ目は恵座クのための経営的なノウハウだ。そして3つを満たした上に、社会的な広がりえお生むしくみが必要だという。こうした基準を満たせば、既存の企業の中でもソーシャル・アントレプレナーを誕生させることは可能だ。
「企業が社会的課題を持つ事業をやりたいと思ったら、まず社員に個人としての顔を取り戻させることが大事。日本の企業の企画会議は、イタリアなどの企業とまったく違う。日本は企業人として意見をいいますが、イタリア人は会社の会議でも家族や地域の中で生活する個人として意見をいいます。ここから、社会的課題が見つかるのです。社会には、マーケティングをしてもみつからないベンチャーチャンスがたくさんある。日本の企業にも、それを知ってもらいたいですね」
STYLE2003・一次審査通過プラン
事業名 |
事業を一言で言うと |
年齢 |
| カンボジアIT職業訓練事業 |
ITを用いて子ども達を商業的性的搾取から救う職業訓練 |
21 |
| POINTerior(ポインテリア) |
家具・家電からインテリアまでの塗り替え |
29 |
| 草原発電プロジェクト |
クリーンエネルギーで環境保全と地域活性化事業 |
30 |
| 沖縄修学旅行のトータルプロデュース |
学びのプロデュースという事業 |
21 |
| 『おばあちゃんのゆりかご』 |
高齢者勤務高付加価値保育所事業 |
23 |
| スポーツ情報マッチング事業 |
スポーツ情報マッチング事業 |
20 |
| マンネンヒツPROJECT |
中国製のユニークな万年筆の販売を通して、ヒトやモノとのコミュニケーションの大切さを訴える事業 |
21 |
| 心とお金の貯金箱 |
金銭教育 |
35 |
| 草原の学校 |
循環型人づくり、地域づくり |
34 |
| まわる世界の歴史教科書博覧会 |
より多様なアイデンティティが共生する未来社会構築を一助するという事業 |
21 |
| 銭湯&キッチンスタジオdeコミュニティソリューション |
文化的価値を持つ銭湯という地域資源と、万人に共通の関心である食を通しての、高齢化地域のコミュニティ形成と活性化 |
31 |
| MY STYLE |
「MY STYLE」―障害という個性を活かした衣服の事業 |
25 |
| 染湯 |
古今東西の優れた知恵や考え方を表し、現代の社会問題をTシャツにアートとして表現し、その解決に向けて若者の共感を呼び起こしていく |
24 |
| 湘南市民テレビ局 |
市民メディアプロデューサーの育成事業 |
21 |
| 森林管理請負ビジネス |
適切に管理されていない森林を所有者に代わって適切に管理し、森林経営のプロ達との連携により、眠っている日本の森林の可能性を引き出す |
29 |
| カウンセリングカフェ |
カフェで受けられる心理カウンセリング事業 |
20 |
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