| 2003年7月8日 朝日新聞
若者の起業力 〜NPO主催のコンテストに見る

世の中には、誰かが解決しなければならない問題があふれています。それなに取り組むことを自らの仕事と思い、定めた若者たちがいます。若者支援のNPO法人「ETIC.」(東京・渋谷)が5月末、社会的の課題に事業として取り組むわかものを支援するビジネスプランコンテスト「STYLE2003」を開催しました。入賞者4人の生き方を取材しました。(林美子)
カンボジアの子どもを支援 村田 早耶香さん(21)
2年前に、児童買春問題に取り組む非営利組織(NGO)のツアーでタイへ行き、エイズホスピスを訪れた。5歳の男の子と出会い、鬼ごっこをし、楽しかった。だが、母親が児童買春の被害にあってエイズをうつされ、自分もウイルスを持って生まれたと聞き、胸がしめつけられた。
「たまたま生まれた場所が違うだけで、こんなにも運命が違うなんて」
そんな憤りを、昨春、社会起業をめざす東京の学生サークルの中に話したら、深夜に3時間も聞いてくれた。仲間と児童買春被害をなくすための「かものはしプロジェクト」(http://www.kamonohashi-project.net/)を立ち上げた。
被害が深刻だとされるカンボジアに職業訓練センターを設置し、子供たちを保護して、英語や現地で不足している情報技術(IT)分野などの訓練をする計画。費用は、日本でIT関連の仕事を受注し、人件費の安い現地のプログラマーに委託して生み出す予定だ。
フェリス女学院大を来春卒業予定で、今秋から現地の滞在し、本格的に拠点づくりを始める。「骨を埋める覚悟は、あります」と言い切った。 中古の自転車・家電を再生 佐藤 大典さん(29)
ヒョウ柄、水玉、ゼブラ模様。カラフルに塗装された自転車は、見ているだけで楽しい。迷彩色のテレビやストーブも。赤と黄色の太陽電子レンジは「よくあったまる感じがしませんか?」。
今年の4月、「POINTerior(ポインテリア)」という事業を、松江市内の自宅アパートで始めた。中古の自転車や家電製品をペンキで塗って再生させ、廃棄物を減らそうという試みだ。
高校中退で父の塗装会社に入ったが、20歳のころ、健康食品の仕事を始めた。借金を抱え、半年間ホームレス状態に。実家に戻ると今度は父の会社が傾き、昨春、フリーターになった。「学歴がないとか親の借金のせいでとか、ひがんでいました」
転機は昨秋、地元の起業家スクールを受講したこと。手間賃の安さや手抜き工事など、建築業界の矛盾を痛感していた。だからこそ消費者にペンキの魅力を知ってほしいと、「ペンキの学校」の事業計画をたてた。
さらに今年1月、友人に「自転車を塗ってみたら」と言われ、単純な構造と機能に魅せられた。事業は「ペンキの学校」と中古品再生との二本立てになった。曲折はあったが「今はたぶんペンキが好き。塗り方を教えることで、ペンキの美しさを教えられた」と語る。
森を生き返らせる 牧 大介さん(29)
「ここではトチノキを植えています。昔はたくさん自生していてトチモチ作っていました」
6月下旬、滋賀県朽木村の山中に、地元の森林保全のNPO法人「杣の会」関係者と、森林認証制度研究会の学者ら約30人が集まった。環境に配慮した森林に与えられる国際基準「森林認証」を、杣の会保有の森林が受けられるかの模擬審査会の事務局長を兼ねる立場から仕掛け人となった。
昆虫少年で大学ではトビムシを研究、生態学者を志した。杣の会に加わり、森林へのかかわり方を変える必要を痛感。5年前に三和総研(現UFJ総研)大阪本社に就職したが、研究領域に林業、森林保全はなく、個人での取り組みが続いた。
入社2年目に学者らに呼びかけて森林認証制度研究会を立ち上げると、行政や林業関係者から仕事の相談が舞い込み、総研の仕事に組み込まれていった。3年目以降は毎年仕事量が倍増、今は部下が2人いる。収入の8割は総研からだが、割く時間は4割。残りは様々な団体、企業での兼業仕事やボランティアだ。
独立も考えたが「会社勤めの方が利益をきにせず打ち込める」と気づいた。受賞後、何人も名刺交換に来た。「サラリーマンでも好きなことを仕事にできる『見本』なのかもしれません」
世界の教科書を収集 下田 亜友美さん(21)
「100年後に世界中の100億人の意識に変革をもたらし、平和な世界を構築すること」。突拍子もない目標をさらりと言ってのける。
その手段が歴史の教科書。190カ国から教科書を集め、各国語に翻訳する計画だ。他の国の人がどのような目で歴史や文化、宗教を認識しているかを知ることで、相互理解が進むと確信する。
昨年2回にわたり、在籍する立命館アジア太平洋大学(APU、大分県別府市)と京都市で「世界の歴史教科書博覧会」を開いた。23カ国分、55冊程度を収集済みだ=写真。APUの留学生が協力してくれた。
根底には、原爆へのt区別な思いがある。子供の頃からなぜか、原爆の資料を見聞きすると緊張し、涙があふれた。戦争への関心は広がり、タイ連合軍捕虜資料館、ドイツのユダヤ人ゲットーなどを、次々と訪れた。
事業費用は、翻訳した資料の出版や助成金などで賄う予定。「事業を通じていわれなく傷つく人が減れば」と願う。
事業募集に92件の応募
「STYLE」は昨年から始まり、2回目。35歳以下の若者から事業計画を募り、1次選考通過後は、起業家らの指導を受けてプランを練り上げる。今回は92件の応募があり、佐藤さんと村田さんが優秀賞、牧さんと下田さんが特別賞を受賞した。
ETIC.(http://www.etic.or.jp/)の宮城治男代表理事は「日本で起業家精神を呼び覚ますのは、金もうけの魅力以上に、大きな夢や目標に向けた決意だと思う」と語る。
審査委員長の田坂広志多摩大学大学院教授「実現可能性を精査すべきとの意見もあったが、(1)失敗しても挑戦し続ける『志』があるか(2)周囲の『共感』を引き出し支援を広げられるか、を重視した。本田宗一郎のような起業家の条件でもある」と話す。 |