阿部 剛 / 第1期生(2009年度)、大学4年生(当時)
千葉県生まれ。22歳。親は自営業で大工。建築を学ぶために東京理科大学建築学科に進学。アルバイトでは大学4年間、塾の講師をずっと続け、チーフとしてイベント企画や進路相談などを行う。また横浜のドヤ街でのボランティア活動、松戸のNPOセンターでのインターンなど、街づくりや教育に興味を持ち、様々な活動を行っていた。
特に塾講師での子どもたちとの接点の中で、教育に深い興味を持ち、中学生や高校生の段階から、社会との関わりを積極的に持ち、本気で人と向き合う経験が、彼らには必要ではないかと、考えるようになり、大学卒業後は、教育事業を起業することを考えていた。

しかし、卒業後に起業を目標にするものの、まだ自分には、起業や事業運営に必要なスキルや経験が不足していると考えていた時、次世代社会イノベータープログラムの存在を知り、応募することになる。
始めはNPOカタリバなど、教育分野で事業を行っているプロジェクトにエントリーを検討していたが、大工の家育ち、建築学科という自分のバックグランド、持っているスキルが、ここなら活かせるのでは、とNPO法人NEWVERY(当時は法人化前でNPOコトバノアトリエ)へエントリーを決めた。
夢を持つ若者の職業的自立をサポートする「トキワ荘プロジェクト」の
他ジャンル展開に取り組む
東京には全国から「○○になりたい!」という夢や目標を持って、上京してくるたくさんの若者がいる。しかし彼らの多くの若者が、家賃や生活費のために日々の生活に追われ、心が折れていく日々を過ごしている。
NEWVERYは、特に地方から出てきている漫画家志望者向けに低家賃住宅(ハード面の支援)と、漫画家として自立するためのソフト面の支援を行うことで、夢を持っている若者の職業的自立をサポートする「トキワ荘プロジェクト」を展開していた。

阿部くんのミッションは、現在、漫画家志望者向けに展開しているトキワ荘を、他のジャンルに展開することだった。
まずは、既存のトキワ荘のビジネスモデルや、事業の仕組み、顧客のニーズや課題、トキワ荘の提供価値を理解するため、物件探し・不動産家・大家との家賃交渉、入居者集め、コミュニケーション講座等のソフト支援など、漫画家トキワ荘のあらゆる業務に積極的に取り組んだ。老朽化する家の補修など、思わぬところで自分のスキルも役に立った。
そして、2カ月が経過する頃、本格的に、他ジャンル展開に向けたリサーチが始まった。NEWVERYの山本氏の事業の立ち上げ方は、徹底的なニーズや、その分野の課題リサーチから始まる。まずはその業界の課題やニーズを本質的に捉える。そして、解決策を検討する。最後に持続発展可能な収益モデルを構築する。代表山本氏から社会事業の立ち上げプロセスを、みっちりと叩きこまれた。

まずは、映画監督、小説家、写真家、ゲームデザイナーなど、若者が夢を抱く職業を100近くリストアップし、市場規模・広報の難易度・必要な支援期間など、評価項目ごとに精査し、いくつかの可能性が高いジャンルに絞りこんでいった。
絞り込んだあとは、実際に業界団体や、当事者へのヒアリング、アンケート調査などを通じて実現可能性や支援の必要性などをリアルに突き詰めた。
同時に、他ジャンル展開に必要な経費(人件費、不動産家に払う初期費用など)を賄うために助成金を探し、親和性が高い助成金団体への申請も自ら行った。この過程でトキワ荘プロジェクトの社会的意義、他ジャンル展開の先にある中長期ビジョンなどを必死に考えること自体が、事業責任者としての視点を養うことに繋がった。
そして、最終的には「アニメーター」という業界全体の課題に辿り着いた。アニメーターは新人の多くが3年以内で職を離れてしまっているという状況で、才能のある若者でも、環境的な問題で業界に残れないということが損失になっているということが支援を決めた理由だ。
今後は秋頃にオープン予定の新しいトキワ荘にて、新人アニメーター10人程に対し、都内の住居支援と成長支援をしていくことで、環境的な要因で辞めてしまう若者を減らし、業界全体の発展に向けた活動を進める計画になっている。
この「アニメーター支援」に関しては、アニメーターの業界団体との包括的なアライアンスも決定し、漫画家トキワ荘とは違う形での支援の枠組みを作ることにも成功した。
将来の教育分野での起業に向けて
阿部くん自身は、次世代社会イノベータープログラムの半年間が終わった2月末以降もプロジェクトを継続し、3月末まで組織に残り、引き継ぎ作業などを行っている。
そして、大学卒業と同時に、NEWVERYを離れ、千葉のNPOに参画することを決めた。当初は、卒業直後に起業する予定だったが、まずは自分がなんとかしたい顧客に対して、必要なサービス・プログラムを提供してみる、その試行錯誤が必要。起業してしまって、「稼ぐため」と本質をずらしてしまうのは本末転倒だ、と考えた結果だった。
阿部くんは、千葉のNPOで子どもたち向けに、自分が考える教育プログラムを提供しながら、事業化に向けた準備を進めていく予定だ。そして今では、数年以内に、家庭の事情で充分に教育にお金がかけられない子どものための教育支援事業を開始したいと考えている。